近年、リスキリング(学び直し)の重要性が叫ばれ、オンラインスクールや資格取得など、大人になってから「学び」に投資する女性が増えています。しかし、結婚している女性にとって、数十万円単位の支出は、個人の問題だけでは済まない側面があります。
たとえ独身時代の貯金や自分の稼いだお金であっても、家庭の中でどう折り合いをつけているのか。星のまなびカフェでは、既婚女性200名を対象に、「30万円のスクール費用を自分のお金で出す場合の、夫婦間のリアルな実態」を調査しました。
調査概要
- 調査対象: 全国、20代〜60代以上の既婚女性 200名
- 主な属性:
- 年齢:30代・40代が中心(約66%)
- 年収:103万円以下(42.5%)、103万〜500万(41%)など、扶養内から正社員まで幅広く
- 収入バランス:84%が「夫の方が収入が多い」と回答
1. 87%が「事前に共有」。30万円は個人の判断を超えた「境界線」
「自分のお金であれば自由に決めてよい」という考え方がある一方で、実際のアクションは極めて慎重です。

[グラフ①:自分のお金で30万使う際のアクション(相談20.5%・報告66.5%・独断13.0%)]
87%の妻が、事前にパートナーへ相談、または報告をしています。 注目すべきは、相談する理由のトップが「パートナーへの敬意・マナー(92人)」であることです。単なるルールとしてではなく、共に生活する相手への「礼儀」として、高額な支出を共有したいという誠実な意向が見て取れます。
一方で、13%の「相談しない・事後報告」派の中には、円満な関係を維持するための「戦略的判断」も見られました。
「どうせ『もったいない』と言われるのがオチですので、最終的には自分で実行するかどうかを決めます。やはり、やる気をそがれるのが一番嫌だからです。」(50代/年収103万以下/子供あり)
2. 52%が抱える「申し訳なさ」の正体は、金ではなく「時間」
自分のお金を使うことに対し、過半数の52%が「申し訳なさ(罪悪感)」を感じると回答しました。

[グラフ②:自分のお金を使うことへの心理的抵抗(罪悪感あり 52%・なし 48%)]
なぜ自分のお金なのに「申し訳ない」のか。自由記述を深掘りすると、そこには「お金」以上に「時間のリソース」に対する負債感がありました。
「お金うんぬんより、子供がいたら、スクールに通っているあいだの子供の面倒を誰がどう見るか、という分担の面で多少申し訳なさを感じる部分があるかもしれません。」(30代/年収500〜800万/子供あり)
このように、30万円の投資によって生じる「学習時間」を捻出するために、家事や育児の負担がパートナーに寄ることを懸念する声が目立ちます。特に子育て現役層にとって、自己投資は「自分の時間」を家族から借りる行為、という感覚が強いようです。
3. 「稼げば自由になれる」のか? 年収バランス別の実態
一般に、経済力が高いほど自由度も上がると考えられがちですが、家庭内のパワーバランスはより複雑です。

[グラフ③:収入バランス別の意思決定スタイル(妻の方が稼いでいる層の不自由さ)]
本調査では、「自分の方が収入が多い」層(n=7)の42.9%が「許可が必要」と回答しました。これは夫の方が収入が多い層(20.8%)を大きく上回る数字です。 母数は限定的ですが、「自分が稼ぎ手であっても、あえてお伺いを立てることで家庭の調和を保ちたい」という、高い配慮意識を持つ女性たちの姿が浮かび上がります。
4. 年代別の「罪悪感」の変遷:40代のピークと60代の解放
自己投資への心理的ハードルは、ライフステージによって大きく変化します。
- 40代:罪悪感を感じる層が約60%(最高値) 住宅ローンや子どもの教育費、将来への不安が重なる世代。「今、自分のためにお金を使っていいのか」という葛藤が最も強くなります。
- 60代以上:罪悪感を感じない層が73.4% 「自分のお金なので当然だと思う」という回答が急増します。子育てを終え、ようやく「自分の人生に主権が戻った」という実感を得る層が多いようです。

[グラフ④:年代別の罪悪感の推移(40代の葛藤と60代の解放)]
自由記述から見る「属性別・本音の相関図」
自由記述の回答を詳細に解析すると、置かれた環境(子供の有無や収入バランス)によって、30万円の支出に対する「心のブレーキ」の質が全く異なることが分かりました。
1. 【子育て世代】「お金」の問題以上に重い「時間の負債感」
現役で子育てをしている層(〜大学生の子あり)では、お金そのものへの抵抗感以上に、学習時間を確保することで生じる「家族への負担」に言及する回答が目立ちました。ここでは、「自分のために時間を使うこと」への調整が、相談や許可という形をとっています。
「子供がいる状況かどうかによって変わるかと思います。お金うんぬんより、子供がいたら、スクールに通っているあいだの子供の面倒を誰がどう見るか、という分担の面で多少申し訳なさを感じる部分があるかもしれません。」 (30代/個人年収:500万円超〜800万円未満/子供:いる/収入バランス:同じくらい)
「選択肢にはなかったのですが、子供がいる場合は家を空けることに対しての相談という意味合いでも自分だけで決める問題ではないかなと思いました。」 (40代/個人年収:178万円超〜300万円未満/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
「事前に相談してみても、やはりお金よりも家族との時間をどうするかのほうが大事だと感じています。小さい子どもがいるので、保育園に預けている時間の間に勤務を中断したり、早めに仕事を切り上げてスクールに通う予定です。土日は旦那さんにお願いすることになりますし、子どもに対してもなぜか罪悪感が湧いてきます。なのに旦那さんは、何気なくいつも日曜日に一人でジムに行っています。だいたい半日くらいですが、それは平気でいられる自分が不思議です。」 (30代/個人年収:300万円超〜500万円未満/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
2. 【キャリア・自立層】「誠実さ」としての報告と、モチベーションの防衛
ある程度の収入がある、あるいは収入が対等な層では、「自分のお金は自由である」という前提を持ちつつも、パートナーへの「筋を通す」という感覚が共有されています。一方で、自分のやる気を削がれないための防衛的な判断も見られます。
「2人の共有のお金ではなく、自分のお金であれば、スクールに通うことは全く問題ないと思います。相手の場合も然りです。ただ家族なので、検討してることを始める前に話した方が誠実だと思いました。」 (30代/個人年収:500万円超〜800万円未満/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
「自分のお金は自由に使えるべきです。但し、夫へ事前に報告はあっても良いと思います。」 (40代/個人年収:300万円超〜500万円未満/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
「夫に相談したところで気に入らなければ反対されるし、自分がやりたければ反対されてもやるので事後報告でよい。」 (40代/個人年収:300万円超〜500万円未満/子供:いない/収入バランス:同じくらい)
3. 【家計優先・慎重層】相互監視と「不機嫌」への配慮
夫がメインの稼ぎ手である場合や、将来への不安が強い世代では、高額な支出が夫婦間のトラブルや、自分自身の心理的な負担(申し訳なさ)に直結しやすい傾向があります。
「自分のお金とはいえ、30万円は安くない金額なので、事前に相談はしたい気持ちになります。しかし、どうせ『もったいない』と言われるのがオチですので、最終的には自分で実行するかどうかを決めます。やはり、やる気をそがれるのが一番嫌だからです。」 (50代/個人年収:103万円以下/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
「私の場合旦那がお金管理しているので、現金が必要な時少額でも何に使うかを言わないといけないので多額だと尚更相談しないと機嫌悪くなります。」 (40代/個人年収:無収入/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
「自分だけが大金を使うと、相手にも許さなくてはならなくなるから本当に必要なときでないと抵抗がある」 (40代/個人年収:103万円超〜178万円以下/子供:いる/収入バランス:夫の方が多い)
4. 【解放・達観層】子育て後の「個人の主権」
子供が独立した世代や、お互いの信頼関係が確立されている層では、罪悪感が薄れ、フラットな関係性での自己投資が可能になっています。
「夫は熟考するタイプで、相談するとなかなかイエスと言わないので、自分のお金は自己責任で使用するのは良いと思います。」 (60代以上/個人年収:無収入/子供:独立済み/収入バランス:夫の方が多い)
「お互いに収入があり自立していて信頼関係を築けているのであれば、家計に影響しない範囲で、自分が向上するために使う費用については自由にすればよいと思う。」 (40代/個人年収:500万円超〜800万円未満/子供:いない/収入バランス:同じくらい)
分析のまとめ:30万円の壁を構成する「3つの要素」
自由記述のクロス集計から、妻たちが感じているハードルは、単なる「金額の多寡」ではなく、以下の3要素の複合であることが浮き彫りになりました。
- 「時間の負債感」: 学習時間を捻出することで生じる家族へのしわ寄せ(特に子育て層に顕著)。
- 「感情の平和維持」: 反対されたり「もったいない」と言われることで、自分の意欲が削がれるリスクの回避。
- 「相互管理の規律」: 自分が自由に使うことで、相手(夫)の自由も認めなければならなくなる家計全体のバランス維持。

5. 30万円の自己投資は「家族というユニット」の再定義
本調査を通じて見えてきたのは、多くの女性が「自立した個人」でありたいと願いつつも、「家族というチームの一員」としての調和を深く重んじている現実です。
30万円のリスキリング費用を巡るやり取りは、単なる家計の議論ではなく、「私が学びたい理由を理解してもらい、家庭内での役割をどう調整するか」という、誠実な合意形成のプロセスでした。
自由記述の中には、「夫は日曜にジムに行くのに、私はスクールに通うだけで申し訳ない」という、役割の差に自問自答する声もありました。しかし、そうした葛藤を抱えながらも「自分の未来を大切にしたい」と一歩踏み出す女性たちが、現代の新しい家族の形を模索しているのかもしれません。
自分のお金を使うことに「ごめんなさい」と謝るのではなく、「未来への投資」として堂々と共有できる関係性。それが、これからの「学び続ける女性」を支える鍵となるでしょう。
【編集後記:まとめ】
今回の調査を通じて、30万円のリスキリング費用を巡る葛藤の正体は、単なる「家計管理」の問題ではないことが浮き彫りになりました。
自由記述の中で特に印象的だったのは、多くの女性が「お金の出所」よりも「時間の出所」に頭を悩ませていたことです。自分の貯金を使うこと自体には権利があっても、学ぶために家事や育児の「穴」を作る、その負担をパートナーに頼むことへの負債感が、罪悪感や「相談」という形になって現れていました。
また、「やる気を削がれたくないから言わない」という戦略的な沈黙や、「自分が自由に使うと相手の自由も認めざるを得なくなる」という相互監視の規律など、夫婦それぞれの絶妙なバランスの上に「自己投資」が成り立っているリアルな姿も見て取れます。
30万円のスクールで手に入るのは、英会話やITのスキルだけではありません。それは、自分のやりたいことをパートナーに伝え、時間の使い方を再交渉し、家族というチームの中での「自分のあり方」を少しずつアップデートしていくプロセスそのものです。
「星のまなびカフェ」は、そんな葛藤を抱えながらも、自らの未来を切り拓こうとするすべての女性たちを、これからも等身大のデータと共に見守り続けていきたいと思います。
(星のまなびカフェ編集部)











